今日、一人の職人が定年を迎えました。
本人が働きたいと考えているのならばいつまでも会社で働いていただく、というのが基本的な当社の方針なのですが、今回のケースは少し違っていました。
彼は聾唖者でした。(Tさんと呼びます。)
昭和42年に入社したTさんは私が物心ついたときからタニハタで組子職人として働いていました。
職人という字は<耳に音>と書きます。
現代のように先輩職人が手とり足とり丁寧には教えてくれない時代です。
「先輩の仕事を耳で聞いて仕事をおぼえろ!」と言われた時代で耳が聞こえない、話すことができないというハンデキャップは想像を絶する苦労があったとおもいます。
そういう中でTさんは一人前の組子職人になりました。
しかし、1990年代後半から業界は大きく様変わりしました。
タニハタの商品は組子障子や欄間がメインでしたが1990年後半からは今まで市場で販売していなかったようなオリジナル品や特注品が主力製品になりました。
細かなお客様の要望にスピーディに対応することが求められるようになりTさんの製作できるものは徐々に減っていったのです。
本人も仕事を続けるかどうか、悩んでおり2年ほど前から何度も手話と筆談で話しあいを続けました。
その結果、今日の日を迎えました。
「つらかったこともあったけど、楽しいこともたくさんあったよ。」
42年間、ハンデキャップを背負いながらひとつの職場で職業を続けるということは、一人の人間としてこんなに素晴らしいことはなく、感謝の気持ちと寂しい気持ちが胸の中に入りまじって私も今日の日を迎えました。
記念品などを渡した後、彼に下の写真を手渡しました。
(三輪車に乗っているのが私で、後ろで三輪車を押しているのが18才のTさんです。)
お互い老けたね~
二人で写真を見て笑いながら握手をして別れました。