「今後は欧州にも組子を販売していく」という会社の方針で昨年、私達女性社員にも欧州視察の声がかかり、ついにその日がやってきた。
羽田空港から約12時間。
初めてパリにきた。日本とは全く違う景色、違う人種、車もフランスやドイツの車ばかり。ヨーロッパに来た実感がした。とても古い建物が建ち並んで、イメージ通りのパリ。日本で見るヨーロッパ風の建物と違って、一棟一棟から歴史が感じられた。この街に現代的なビルが建っても似合わないとすぐに感じる。
ただ、初めて来て驚いたのが、街中の落書きやごみ。嫌でも目に入ってくる、ものすごい量だった。美しい街ではあるけれど、少し印象が変わった。
郊外にはオフィスビルのようなガラス張りのビルが多い。ホテルまでの道中、建築用のクレーンがたくさん見られた。古い建物ばかりで、引っ越しも窓にクレーンをかけて荷物を出しているようだった。
最初に訪問した木工の工房では、各職人さんが自分のスペースを持ち、各自で管理されていた。日本と同じような機械での作業。組子のカタログやサンプルを差し上げたとき、言葉はわからないが、とても目をきらきらさせて嬉しそうな表情が印象的だった。
魚の骨や鱗を原料にして接着剤を作るのだそう。すごい。
修道院のステンドグラスを修復する若い女性達。
水に濡れた絵画を修復する日本人の女性も。
皆、新しいものを一から製作するのではなく、すべて古くなったものを修復していた。見かけだけではなく、作り方や仕上がりまで当時と同じものを目指すことは、簡単ではないし、時間もお金もかかる。でも、フランスではそれが当たり前で、むしろ昔ながらの作り方、直し方に価値を見いだす国なのだと感じた。
ルイヴィトン美術館は、来る人を圧倒させる美しい建物で、入る前からワクワクした。建築家「フランク・ゲーリー」が設計したこの美しい建物は、ルイ・ヴィトンというブランドイメージを輝かせるためにいろいろな工夫をしたのだろう。建築部材の使い方、ガラスの壁面の使い方がダイナミックで、開催していたニューヨークのMOMAのアートも心から楽しむことができた。この建物の中を歩いて「ブランドを構築するとは?」私なりにいろいろ考えさせられた。
最後に日本の有名な建築家 坂茂氏の「ラ・セーヌ・ミュージカル」を見学。
セーヌ側沿いに日本の籠目柄の格子を取り入れた音楽堂を建てる・・その心意気が素晴らしい。
フランスの大型ホームセンターも視察。
七宝柄。
大工道具もいろいろ。
3日目、午前中はルーブル美術館へ。あいにくの雨。
想像していたより何倍も広い敷地に、大きな建物。何世紀も前に、歴史上の人物がいた場所に自分が立っていると思うと、すごく感動した。
ここには芸術に詳しくない人でも名前を聞いたことのある作品がたくさん並んでいる。ただ、美術品以上に建物のつくりや内装に目がいく。柱から扉、天井まですべてに手が加えられ、何百年も前のものとは思えない美しさだった。今思えば、これもフランスの職人さんたちが、昔の形を残すよう技術を駆使して補修してきたおかげなのだろうと納得できる。
その後、メゾンエオブジェの会場へ。初めて世界規模の展示会に来たが、まず会場の広さと出展者数の多さに驚いた。展示方法もさまざま。
スペインの陶磁器の会社は、壁面パネルに大柄の麻の葉を使っていた。ゴールドの金属製でとても華やかだった。日本の吉祥文様と知って使っているのか、ただデザインが好きで使ったのか。どちらかはわからないが、磁器でできたヨーロッパの人形が麻の葉の前に並んでいても違和感がなかった。私は麻の葉を見ると必ず「和」のイメージに縛られるが、ヨーロッパでは独自の感覚で新しい使い方を生み出しているようだった。
最終日、午前中はヴェルサイユ宮殿へ。整備された広い庭に、シンメトリーの宮殿。完成までに20年かかったという。現代では、同じ規模のものは造れないだろうと思うと、大切に補修して、何世紀先にもこの形を残しておきたいという気持ちがよくわかった。
ガイドさんの説明を受けながら各部屋を回った。目につくあちこちの絵や家具、置物にストーリーがある。絵の中に現実の出来事を暗示させたり、体だけ若く描いてみせたり…
そんなトリックが多く、とても興味深かった。天井画に日本の甲冑が描かれていたのも嬉しかった。鎖国中の日本と遠く離れたフランス、空を飛べるようになった現代でも遠く感じるのに、そのころ日本はどんな印象だったのだろうと、すごくワクワクした。
今回のフランス研修で、日本人がどれだけ几帳面で神経質、繊細かということに気付かされた。日本人の中でも個人差はあるが、それを差し置いても日本人は繊細。それは悪く言われることも多いが、私は日本人が誇るべきところだと感じた。
フランスに住み働く日本人の方にもお会いして話を聞いたが、こんなにも環境の違う国で働くということは想像以上に苦労があったのではないかと思う。しかし、とても楽しそうで輝いてみえた。前向きな姿勢を見習いたい。
また今回、時々英語で話す機会があった。観光客が非常に多い街なので、未完成なカタコトの英語でも理解してくれる人が多く有難かった。そして、もっと話したいと思ったので道を聞いてみたりした。正しい言葉を話すことも大事だが、積極的に話すことで伝わるものだと痛感した。英会話レッスンのおかげか、割と返事を聞きとることもでき嬉しく感じた。
最後に、大げさだが組子は日本人を物語るような製品なのではないかと思う。見かけだけでなく、どれほど精密で丁寧に作られた製品か、どんな思いが込められているのか、そこを理解してもらうことで、ただの木製品ではなく、空間のシンボル的なものに変わる。今後、海外から問い合わせがあれば、表面的な部分だけではなく、より詳しく丁寧な説明ができるようにしたい。また、完璧ではなくても、海外のお客様とコミュニケーションを取れるよう積極的に英語を勉強していきたいと強く感じた。この貴重な経験を必ず今後に生かしていきたい。
向島、冨田の3人で記念撮影。