旭川出張レポート
下屋敷卓也
日本の木製家具の五大産地のひとつ、北海道旭川市に社長と行ってきました。
旭川駅を降りると、駅の内装に北海道産のタモ材がふんだんに使われており、木材豊富な町であることが一目でわかりました。壁には工事に対して寄付した人たちの名前がレーザーで刻まれており、いろいろな人の思いが込められた駅舎なんだ・・と着いた早々感銘をうけました。(駅のスタッフに聞くと一万人の名前が刻まれているそうです。)
すごい数の板(名前入)です。
以前、この壁を見られた富山商工会議所の方から同じような社名板を製作してほしい、と組子で製作させていただいたのを思い出しました。
「家具の産地に来たぞ!」と着いた早々気分が高揚しました。
◆北海道立北の森づくり専門学院
我々組子屋は国産木材がないと仕事が成り立ちません。
しかし、国内の林業は若い人がなかなか入ってこない、入っても続かない、という状況を聞くことが多くなり、「これからの日本の林業、木工はどうなるのだろう・・」と私自身考えることが増えました。
その答えを見つけるために今回、北海道立の林業の専門学校「北海道立北の森づくり専門学院」にお邪魔しました。
ここの学校は2020年4月開校で、まだ新しい学校です。
ここの入学資格は道内の林業関連企業の就業を希望すること、高校卒の同等の学力がある40歳以下の人だそうです。
(卒業したら北海道以外の場所で就職はNGだそうです。)
授業の2/3は実習の時間で、森林調査、苗木づくり、植え付け、チェーンソーでの切削加工、林業機械、木材加工などあらゆる実習を行い、即戦力となるような学習内容になっています。卒業までに15の資格を取得可能とのこと。素晴らしい。
これだけ実習の多い林業の学校は全国的にも珍しいとのことでした。
また、スノーモービルやスキーなどで雪山をすべる訓練からドローン実習、重機のシミュレーター実習もあり、若い人が少しでも林業に関心を持つような学習内容、施設になっているのが大変素晴らしいと思いました。
チェーンソーで製作された熊の置物。 入り口でお出迎えしてくれました。
チェーンソー実習する場所です。暑い日はこの大きな傘で日陰をつくるそうです。
釣りやサッカーなど普通の学校と同じようなサークル活動も充実しており、「林業」という少し重いイメージを無くそうしようという姿勢が感じられました。また学生は、1人1台タブレットを配布され、これからのデジタルでの職場環境を意識した学習方法がとられていました。
学校の理念が「100年先の風景(もり)をつくろう。」
林業の人手不足の中、こういった設備の整った学校を作ることにより、道内の林業の人材を確保し、100年先へとつなげていく取り組みはとても大切だと感じました。
北海道らしく木材の端材を使って暖房します。
タブレットを使っての勉強
重機のシュミレーター。ゲーム感覚で操作できます。
◆旭川デザインセンター
旭川の家具、クラフトメーカー30社の製品が、ここ1箇所で見られるショールームになっており、製品の購入もできる施設になっています。
旭川家具の歴史は古く、明治時代中期の陸軍第七師団設置により、多くの建築・建具職人が移住してきたことをきっかけとしています。
旭川の家具は、北海道の豊富な森林資源と優れた技術力を背景に、国内はもとより世界に知られるブランドに成長しました。
国際家具デザインフェア旭川(IFDA)や旭川デザインウィークの開催など、旭川のものづくりとデザインを世界に発信する様々な取組を発信されています。
旭川デザインセンター 建物外観
また、この施設はユネスコのデザイン都市に認定されており、旭川の産業観光拠点として家具の歴史やものづくりについて学ぶことができるミュージアム、家具づくりなどのワークショップも併設されています。
施設の中は多くの家具が展示されており、大変見ごたえがありました。
特に山口智大さんの家具は技術の高さとデザインの良さ両方兼ね備えたもので、技能五輪全国大会でも2回金賞を取っていて素晴らしい職人だと思いました。
同じ木工職人として私ももっと高みをめざしたいと思いました。
◆講習会 旭川市工芸センター
工芸センターの中には家具、木材の実験用機械がたくさんあり、ホゾや接着剤の強度実験、含水率の計測、椅子の強度を調べる試験用の機械(座面と背もたれ同時に圧をかける試験)など見慣れない試験機械をたくさん見せていただきました。
私達が施設内を見学していると「技能五輪」に参加する若い職人達が、五人くらい集まっており、それぞれ勤めている会社が終業してからこの場所に来たとのことでした。
(技能五輪とは、23歳以下の青年技能者が技能レベル日本一を競う大会です)
この時点で18時を過ぎていましたが、ここから夜遅くまで木工技術について勉強するとのこと。
それらの若い職人を支える工芸センターのスタッフの方々の仕事ぶりや、若い職人達への熱いサポートを見せていただき、旭川が木工の町と言われている理由を心から理解しました。また、羨ましくも感じました。
そしてこの場所が日本の木工技術を磨く場になっていることにとても感動いたしました。
●講習会
6月に旭川市工芸センター様から「旭川の職人が集まる勉強会でタニハタの組子細工について話していただきたい」という依頼がありました。私たちは組子屋であり、「私たちの話しが役に立つのだろうか?」と少々戸惑いました。しかし、木工の聖地とも言えるその場所を訪れてみたいという思いから、予定を組ませていただきました。
勉強会では、組子や富山の歴史、タニハタの組子の特長などについて約1時間30分間話しました。参加者は家具屋さんの職人など20~30代の若い方が多く、講演後の質問の内容などから高い仕事への意識を感じました。
組子のワークショップも行いました。私たちの話が皆さんのビジネスに少しでも役立てば幸いです。
<木工への熱意> 私自身も忘れないように・・ そんな決意を胸に旭川を後にしました。
私たちも、今回の出張をきっかけにさらなるステップアップを目指します。
関係者の皆様、この機会を与えていただきありがとうございました。
※講演に関するアンケート結果もいただきました。
下屋敷卓也